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福岡地方裁判所 昭和30年(行)30号 判決

原告 有限会社古賀木工場

被告 大川税務署長

訴訟代理人 今井文雄 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十八年九月十四日原告に対してなした物品税金四万二千九百円の賦課処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、「原告は肩書住所において机、椅子等の製造及び販売を業とするものであるが、訴外九州電力株式会社(当時日本発送電株式会社)港第二発電所に対し、(一)昭和二十五年六月十四日原告製造の事務机(単価金二千四百円のもの)二十個を金四万八千円で、(二)同年七月八日同じく事務机(単価金二千四百円のもの)二十個を金四万八千円で、(三)同月十三日同じく事務机(単価金二千四百円のもの)十個を金二万四千円で各移出販売した。而して当時右訴外発電所は用務多忙であつて右事務机を受取るためトラツク及び運搬に要する人員を原告方に派遣することができない事情にあつたので、原告に右事務机の運搬方を依頼するに至つた。そこで原告はトラツク及び人員等を準備し、右事務机を訴外発電所に運搬し同発電所の倉庫に格納した。そめため原告は(一)、(二)の場合は机一個につき金五百円相当、(三)の場合は一個につき金三百円相当の費用を要し、訴外発電所のためこれを立替え支払つたので、その後同発電所から(一)、(二)の場合は各金一万円、(三)の場合は金三千円の各立替金の支払を受けた。ところで当時物品税は机については単価金二千五百円以上のものにのみ百分の三十の税率で課税されていたから、前記事務机の移出については当然課税されない筈である。また当時の物品税法施行規則第十一条には『物品の価格ハ当該物品及其ノ容器又は包装ノ価格ニ荷造費、運送費、保険料其ノ他ノ費用ヲ加ヘタル金額ニ依ル、但シ製造者ガ引取人ノ為ニ立替支払シタルコトノ明白ナル費用ハ之ヲ控除ス』との規定があつたが、前記立替金はいずれも同条但書に該当するので、これを事務机の価格に加算すべきではない。然るに被告は前記立替費用を加算して(一)、(二)の場合は事務机の単価を金二千九百円、(三)の場合は単価を金二千七百円として計算し、総合計金十四万三千円の物品を移出したものと認め、物品税金四万二千九百円の賦課を決定し、昭和二十八年九月十四日原告にその旨通知した。しかしながら被告の右賦課処分は前述の理由によつて違法なものであり、当然に無効のものといわなければならない。(昭和二十五年度において大川市の家具製造業者のうち原告を除き何人も本件のごとき事務机(片袖高机)を移出して物品税を賦課されていないのである)。そこで原告は右物品税を納付しなかつたところ、被告は督促状を発した上遂に昭和三十年五月二十七日右物品税金徴収のため滞納処分として原告所有の木工旋盤一台を差押えるに至つた。以上の次第であるから被告が昭和二十八年九月十四日原告に対してなした本件物品税賦課処分の無効確認を求めて本訴に及ぶものである。」と述べ、立証として甲第一乃至第五号証、同第六号証の一、二、同第七号証の一乃至三、同第八号証、同第九号証の一、二を各提出し、証人木下茂三郎の証言並びに原告会社代表者の尋問の結果を援用し、乙第一号証の成立を認め同第二号証は不知と答えた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、「原告の請求原因事実中、原告が肩書住所において机、椅子等の製造販売業を営んでいること、原告主張の日頃訴外九州電力株式会社港第二発電所との間にその主張のごとき事務机の売買が行われたこと(但し机の単価が各金二千四百円であることを除く)、当時製造場より移出する際の机等の価格が金二千五百円未満のものは物品税が賦課されなかつたこと、被告が原告主張のとおり物品税の賦課処分を行い、且つ被告が督促状を発した上、原告主張のごとき滞納処分による差押をなしたこと、当時大川市における家具製造業者のうち原告以外の者に対し片袖高机の移出につき物品税を課したことがないことはいずれもこれを認めるが、本件物品が原告主張の事由により非課税であること、従つて本件課税処分が違法であることはこれを争う。即ち、原告は前記発電所との売買により(一)昭和二十五年五月三十一日机二十個(単価金二千九百円)、(二)同年六月十五日机二十個(単価金二千九百円)、(三)同年七月十一日机十個(単価金二千七百円)をそれぞれ原告の製造場より移出した。従つて原告は物品税法(昭和二十四年法律第四三号による改正後、昭和二十五年法律第二八六号による改正前のもの)第二条、第四条により当然本件課税処分のとおり物品税を納付すべき義務を負うものである。原告は本件物品の単価がいずれも金二千四百円であり、(一)、(二)の移出については机一個当り金五百円相当、(三)の移出については机一個当り金三百円相当の金額を運送料その他の諸費用として立替え支払つたから、その後訴外発電所から右立替金の支払を受けた旨主張するけれども、このことは事実に反する。即ち、本件売買契約によれば、物品の引渡場所はいずれも訴外発電所の倉庫となつており原告の製造場より右倉庫までの運賃等を含めて、本件事務机の価格が被告主張のごとく(一)、(二)の場合は金二千九百円、(三)の場合は金二千七百円と定められていたものである。従つて本件は物品税法施行規則第十一条の本文に該当し但書には該当しない。仮に、本件物品の単価が原告主張のごとくいずれも金二千四百円であつてその残余の金員は物品運搬等に要した費用の立替金として受取つたものであるとしても、このことは当該契約の内容を仔細に検討して始めて判りうることであつて、この点に関する認定の誤りは本件賦課処分を無効ならしめるものではない。よつて原告の本訴請求は失当である。」と述べ、立証として乙第一号証の一乃至八、同第二号証を各提出し、甲第一乃至第五号証の各成立を認め、その余の甲号証は不知と述べた。

理由

原告が肩書住所において机、椅子等の製造販売を業とするものであること、訴外九州電力株式会社(当時日本発送電株式会社)港第二発電所に対し原告主張の日時前後三回に亘り事務机合計五十個を移出販売したこと、これに対し被告が原告主張のとおり物品税の賦課処分をなしたことは当事者間に争いがない。

そこで本件事務机の移出価格について判断する。成立に争いのない甲第二乃至第五号証、証人木下茂三郎の証言及び原告会社代表者尋問の結果によれば、昭和二十五年頃大川市の家具製造業者間では普通の片袖高机(長さ二尺五寸、巾三尺五寸、高さ二尺五寸)は一個千九百円から二千百円程度で製造販売していたこと、原告が前記訴外発電所から註文を受けた片袖高机は普通のものより巾が二寸長かつたため原告方の工場渡しで二千四百円となつていたこと、原告はもともと店頭販売を原則としていたが、他方訴外発電所においては売主が物品を納入する方法を採用しており、しかも当時発電所は用務多忙であつて机を受取るためトラツク及び人員を原告方に派遣することができない事情にあつたので、発電所は原告に右事務机の運搬納入方を申入れたところ、原告において運搬等に要する費用を見積り運賃(トラツク)約九千円、人夫賃一万円、運送中に生ずべき破損の修理費その他約六千円、以上合計二万五千円と概算し、本件机一個につき代金二千四百円のほかに五百円(なお第三回目の机十個については距離の近いことを理由として三百円に減額した)の交付を受けることとして原告が右事務机の納入方を引受けたことが認められる。而して以上の事実よりすれば本件事務机の移出価格はやはり原告方工場渡し二千四百円であつて、原告が発電所に代つて机を運搬することを引受けその費用も立替支払つておくこととし、立替費用の額を予め一個当り五百円と約定したに過ぎないもの(即ち原告は机一個当り五百円の費用の範囲で運搬の責任を負い、発電所は五百円の範囲で原告の立替費用を支払う義務を負担し、たとえ現実に要した費用に若千の過不足が生じても一個当り五百円として決済する趣旨)と解するを相当とする。もつとも成立に争いのない乙第一号証の三乃至七によれば、前記発電所の物品註文書並びに原告の納品書にはいずれも事務机の単価が二千九百円、受渡場所は発電所の倉庫と記載されていること、また成立に争いのない乙第一号証の八によれば、原告の納品書には事務机の単価が二千七百円、受渡場所は発電所の倉庫と記載されていることが認められ、本件取引の内容が当初の原告方工場渡し二千四百円から発電所の倉庫渡し二千九百円乃至二千七百円に変更されたのではないかと考えられるが、元来発電所の物品購入は売主において納品することを原則としていたので本件取引も帳簿の記載の便宜上、事務机の価格と立替費用とを合計して事務机の価格とし、これに合致するように前記物品註文書並びに納品書が作成されたに過ぎないことが前掲各証拠からも窺われるので、右事実のみでは未だに前記認定を覆えすことはできないし、また他に右認定を左右するに足る証拠もない。

ところで当時物品税は二千五百円未満のものには賦課されていなかつたのであるから、被告が原告の本件事務机(単価いずれも二千四百円)の移出に対し、真実の移出価格のほかに立替費五百円乃至三百円を加算して、これを移出価格と認め、これに原告主張のごとき物品税を賦課したことは課税対象につき誤認をなしたものであつて、違法であるといわなければならない。

しかしながら前記認定のごとく訴外発電所の物品註文書及び原告の納品書には、事務机の単価として立替費を含めた金額が記載されていたという事実もある以上、被告がこれにつき課税対象ありと誤認したとしても、未だ重大な過誤があつたとは断定できないのである。従つてこのような賦課処分の瑕疵は取消の原因となることがありうるだけであつて、当該処分を直に無効とする程度に明白且つ重大なものとは認め難いのである。

されば既に本件処分の日から二年余を経過して始めてその無効であることの確認を求める原告の本訴請求は失当として棄却を免がれないところであり、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 丹生義孝 藤野英一 権藤義臣)

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